講座紹介 教授の挨拶
軸足は「病院医療の質の向上」
放射線医学は現代医療のなかで非常に大きな役割を果たしています。疾患の治療方針の決定には正確な診断が不可欠ですが、診察や血液検査に始まる基本的な医療に加え、現在では病変を目に見えるように映し出して評価する「画像診断」がとりわけ重要になりました。画像診断にはCT、MRI、PETなどが代表的ですが、これらの手法を用いて人体を精密に画像化するとともに、そこから病変を正確に読み取り、さらに医学的な知見を加えて診断を行うのがわれわれ放射線科医の役割です。岩手医大の放射線科ではほとんど全ての診療科の画像診断を担っており、カンファランス等を通して診療科と有機的に連携することで病院全体の医療の質の向上に貢献しています。
また、画像診断の技術を応用した画像ガイド下治療(IVR)にも力を入れており、身体的、心理的負担が少なく、かつ適切な診断や治療を救急症例を含めて提供しています。放射線治療の分野でも、放射線腫瘍科の放射線治療専門医が最新鋭の装置を用いてIMRT(強度変調放射線治療)等の高精度な治療を行っています。
目指すは「最先端」
私の専門でもある画像診断学は、最新のテクノロジーを用いて人体を低侵襲的かつ高精細に可視化して形態的、機能的評価を行う学問だと思います。近年のコンビュータなどの技術の進歩とともに画像診断も進化を続け、2次元から3次元、さらには4次元診断へと発展しました。画像診断学は科学のダイナミックな進歩をいち早く享受、体感できる魅力的な領域だと感じています。われわれの教室では、最新技術を取り入れるばかりでなく、産学協同研究を通して診断装置の開発や診断技術の開発にも積極的に取り組んでいます。キャノンメディカルシステムズとは320列CTや超高精細CTの、NTTデータとはAI(人工知能)の研究開発を行っています。また、米国のJohns Hopkins大学とは冠動脈疾患に対する超高精細CTの診断精度に関する国際多機関共同研究を行っています。
伝統の「人材育成」
このように、われわれの教室は附属病院や地域医療に軸足を置きつつも、最先端で世界にも目を向けた放射線医学の実践を目標に日々努力しています。一方、当教室は80有余年という長い歴史を有しますが、「個人の特性や希望を尊重する」という伝統があります。私は当教室の出身ですが、そのように育てられましたし、これからもこの良き伝統に沿って人材を育成したいと考えています。診療でも、研究でも、教育でも何か一つ、小さな領域でもよいので全国的に、できたら世界的にも通じる得意な分野を持ち、地域医療や放射線医学に貢献できる人材が一人でも多く育つことを願っています。
当教室の沿革
足澤三之介 教授により昭和12年5月に創設された。足澤教授は放射線や温泉作用の血清学的研究、平泉中尊寺の藤原氏四代のX線学的研究で優れた成果を残した。昭和48年からは第二代 柳澤融 教授に引き継がれ、放射線治療学や温泉医学の発展・普及に尽力するとともに、今日に至る歯学部の放射線科との連携の基礎を築いた。平成8年には第三代 玉川芳春 教授が就任し、それまでの教室の弱点であった放射線診断学の分野の基盤整備を自ら先頭に立って強力に推し進め、全国的にも通じる人材を精力的に育成した。平成14年から第四代 江原茂 教授が就任し、放射線診断学を発展させるとともに、PET・リニアック先端医療センター(センター長: 中村隆二 教授)を附属病院の隣地に開設、続けて附属病院に放射線腫瘍学科を新設し、担当として 有賀久哲 教授を東北大学より招聘して放射線治療と核医学の分野の充実に貢献した。平成31年からは第五代 吉岡邦浩 教授に引き継がれ、盛岡市から矢巾町に新築移転した附属病院とともに新たなスタートが切られている。